この記事の結論

SalesforceとNVIDIAは9月15日、Nemotron 3 Superを追加学習したCRM向け推論モデル「Koa」を発表。合成データのみで学習し自社基盤内で動かします。

概要:DreamforceでKoaを発表

SalesforceとNVIDIAは2026年9月15日、Salesforce初のCRM(顧客関係管理)向け推論モデル「Koa」を発表しました。同社のAIエージェント基盤「Agentforce」向けのモデルで、NVIDIAのオープンモデル「Nemotron 3 Super」を土台に追加学習(post-training)して作られています。発表はSalesforceの年次イベント「Dreamforce」に合わせたもので、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがSalesforceのマーク・ベニオフCEOとともに登壇しました。

Salesforceの発表によると、Koaは30年近いCRM導入の知見をもとに作った独自の合成データで学習しており、顧客データは学習に一切使っていません。モデルの重みはSalesforceが管理し、追加学習も推論も同社の信頼境界(trust boundary)の内側で行います。

このサイトの読者にとってのポイントは、NemoClawでも使われるNemotronというオープンモデルを、大企業がNeMoのツール群で自社業務向けに仕立て、Agentforceで顧客が選べるモデルとしてパイロット提供を始めるところまで来たという点です。「オープンモデルを自社用に調整する」ことの具体例として参考になります。

作り方:合成データとNeMo RL・NeMo Gym・NeMo AutoModel

Salesforceの発表では、学習データはすべて合成シナリオで構成されています。見込み客の獲得、商談の見極め、サポート案件の解決など、Agentforceのエージェントが行う推論・ツール利用・判断を再現したもので、製造、金融、医療、旅行を含む14以上の業種の業務を模しています。各シナリオでは、特定の人物像(ペルソナ)と作業を組み合わせ、作業完了までに必要な操作とツール呼び出しの順序を対応付けています。

追加学習には、教師ありファインチューニング(SFT)と、GRPO(Group Relative Policy Optimization)による強化学習を使い、NVIDIAの「NeMo RL」「NeMo Gym」「NeMo AutoModel」で実施したと説明されています。優先度の高い業務に絞って学習させることで、正しい答えを出すだけでなく、目的に向けて正しい操作を一つずつ実行できるようにした、というのがSalesforceの説明です。

NVIDIAのブログは、Nemotronがオープンであるため、Salesforceが自社インフラの中だけでファインチューニングと運用を完結できたと述べています。

性能と提供時期

性能について、Salesforceは自社のCRMベンチマーク(商談の更新、案件の振り分け、フォローアップの予定登録といった実務タスクの集合)で、KoaがCRM操作で主要モデルと同等以上の成績を出し、誤りは3分の1だったとしています。ただしこれはSalesforce自身のベンチマークによる数値で、第三者による検証結果ではありません。

Koaはすでに社内で使われており、Slack上で社員の情報探しや日常業務を手伝うエージェントを動かしています。顧客による試験導入(パイロット)は、1-800Accountant、Baxter Credit Union、Engine、Formula 1、UChicago Medicine、Xeroで始まります。一般提供は2026年冬に米国リージョンで予定されています。NVIDIAのブログは、顧客パイロットが10月に始まるとしています。

あわせて、政府機関や規制の厳しい業界向けの「Missionforce」に、Nemotronベースのモデルとアクセラレーテッドコンピューティングを持ち込むことも発表されました。プライベートクラウドや、外部ネットワークから切り離されたエアギャップ環境での運用を想定しています。

日本企業にとっての意味

現時点で発表されているKoaの一般提供は米国リージョンのみで、日本のSalesforce利用者がすぐに選べるものではありません。日本での提供予定は発表資料には書かれていません。

それでも、この発表から学べることは多くあります。第一に、顧客データを使わず合成データだけで業務特化モデルを作るという進め方です。個人情報の扱いが厳しい日本企業でも、実データを学習に出さずに自社業務へ寄せる道筋として参考になります。第二に、ベースモデルとしてオープンなNemotronを選び、重みを自社で持つことで、推論まで自社の管理下に置ける点です。

一方で、Salesforceの規模だからこそ、30年近い業務知見から大量の合成シナリオを作れたという面もあります。中小企業が同じことを一から行うのは現実的ではありません。まずは自社の業務を少数のシナリオとして書き出し、既存のオープンモデルやNemoClawのエージェントで試して、どこで失敗するかを把握するところから始めるのが現実的でしょう。

NeMoでの追加学習を検討する際の着眼点

当サイトでは、NemotronをNeMo CustomizerなどのNVIDIAのツールで自社向けに調整する方法を扱ってきました。Koaの発表で使われたと明記されているのは、NeMo RL、NeMo Gym、NeMo AutoModelの3つです。強化学習の環境を用意するNeMo Gymと、学習を回すNeMo RLを組み合わせた点は、単純な教師ありファインチューニングにとどまらない構成として注目できます。

検討時の着眼点としては、どの業務を「正しい操作の順序」として定義できるか、評価用のタスク集合を自社で持てるか、学習と推論をどこで動かすか、の3点が挙げられます。特に評価用のタスク集合は、Salesforceが自社ベンチマークで成果を示したように、導入効果を説明するうえで欠かせません。

なお、発表ではKoaの重みはSalesforceが管理し、Salesforceがホストする選択肢として提供されるとされており、重みの一般公開には触れられていません。あくまでNemotronを土台にした企業独自モデルの事例として捉えてください。

出典