この記事の結論
NVIDIAがGTC 2026で発表したAIエージェント実行基盤NemoClawの最新状況を整理。OpenShellによるサンドボックス、Nemotron 3 Ultra、NeMo Customizerを用いた企業のモデル特化まで、2026年8月30日時点の要点を解説します。
NemoClawとは何か:OpenClawに安全性を足す実行基盤
NVIDIA NemoClawは、2026年3月16日のGTCで発表されたAIエージェント向けのオープンソース・スタックです。エージェント基盤であるOpenClawの上に載り、NVIDIA Nemotronモデルと新発表のNVIDIA OpenShellランタイムを単一コマンドでインストールできる点が最大の特徴とされています。自己進化する常時稼働型の自律エージェント(クロー)に、プライバシーとセキュリティの制御を後付けするのではなく、基盤レイヤーとして最初から組み込む発想です。
解説記事ではしばしば「OpenClawがLinuxカーネルなら、NemoClawはエンタープライズ向けディストリビューション」という比喩が使われます。エージェントはこれまで通りコードを書き、Webを閲覧し、ファイルを操作できますが、その一つひとつの行動がポリシーチェックを通過する構造になります。クラウド、オンプレミス、そしてNVIDIA RTX PCやDGX Station、DGX Sparkといった専用マシンまで、同じスタックで動かせる点も企業導入を後押ししています。
OpenShell:カーネルレベルのサンドボックスとYAMLポリシー
NemoClawの中核がOpenShellランタイムです。エージェントの実行環境をサンドボックス化し、YAMLファイルで定義されたポリシーによって、許可されていないネットワーク通信、特定ファイルへのアクセス、データの持ち出し(外部流出)を防ぎます。クラウドセキュリティ関連の技術評価では、Landlockやseccomp、ネットワーク名前空間といったLinuxカーネルの機構を用いた分離、エージェントプロセスの外側で動くアウトオブプロセスのポリシーエンジン、そして機微データを判別してローカルのNemotronモデルへ振り向けるプライバシールーターが要素として挙げられています。
設計思想として重要なのは、「エージェントランタイム自身に自分のセキュリティポリシーを守らせない」という点です。実行するコードの一部を攻撃者が制御し得る前提に立ち、判定と執行を別レイヤーに切り離しています。APIキーやパスワードなどの資格情報をサンドボックス内のファイルシステムに置かず、実行時に環境変数として注入する運用も紹介されています。ポリシーが単一のYAMLファイルにまとまるため、セキュリティチームは差分レビューやプルリクエストの承認フローで管理できます。
Nemotron 3ファミリー:Nano・Super・Ultraの布陣
NemoClawが前提とするオープンモデルがNemotron 3ファミリーです。Nano・Super・Ultraの3サイズ構成で、エージェント型AIアプリケーション構築に向けた効率性と精度を狙います。NVIDIAはNemotron 3 Nanoについて、前世代のNemotron 2 Nano比で4倍のスループットを実現し、ハイブリッドMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャによって大規模マルチエージェント構成で高いトークン毎秒性能を出すと説明しています。加えて、モデル本体だけでなく学習データセットや強化学習環境も公開する方針が示されました。
最上位のNemotron 3 Ultraはオープンウェイトとして2026年6月に公開され、技術レポートではMoEとハイブリッドMamba-Transformerを組み合わせたエージェント推論向けモデルと位置づけられています。多段のコーディングエージェント、企業文書のRAG、リサーチ自動化など、長時間稼働するワークフローが主な想定用途です。NVIDIA Researchの報告では、チップ設計向けのACE-RTLエージェントを用いたRTLコーディングでオープンモデル中の高い成績が示されています。
NeMo Customizer:現場のフィードバックでモデルを育てる
企業がNemotronを自社業務に最適化する際の受け皿が、NeMoマイクロサービス群です。中でもNeMo Customizerはモデルのカスタマイズ(ポストトレーニング)を担い、NeMo Evaluator(評価)、NeMo Data Designer(データ生成)と組み合わせて使われます。NGCカタログではCustomizerの学習用コンテナが配布されており、複数モデルに対応したカスタマイズジョブの実行基盤として提供されています。
実際の活用例として、Aibleは「AIエージェントをペットではなくインターンのように育てる」というアプローチを掲げ、エージェントの推論ステップやツール呼び出しの各段階に対する細粒度のユーザーフィードバックを用いて、NeMo Customizer/Evaluator/Data Designer経由でモデルをポストトレーニングしています。ここで課題となるのがコールドスタート問題で、小規模モデルの育成には教師役となる大型モデルが必要になる一方、多くのフロンティアモデルはライセンス上その出力をポストトレーニングに使うことを禁じています。オープンウェイトのNemotron 3 Ultraは、この制約を回避できる教師モデルとして注目されています。
ブループリントとエコシステム:LangChain、Nous Research、EDAベンダー
NVIDIAはNemoClawをブループリント(参照実装)の形で提供しています。各ブループリントには、実行時のポリシー制御を担うOpenShell、Nemotronをはじめとするモデル、特化と最適化のためのNeMoといったNVIDIA Agent Toolkitの構成要素が含まれます。標準構成ではLangChainのオープンソースDeep AgentsコードハーネスをNemotron 3 Ultra向けにチューニングして同梱しつつ、他モデルへの差し替えも可能な柔軟性を持たせています。
パートナー連携も広がっています。Nous ResearchのHermesとの組み合わせでは、スキルとメモリのループにOpenShellのランタイム制御を重ねることで、経験から学び、成功したワークフローを再利用する自己改善型エージェントを、プライバシーと推論のガードレール付きで動かす構成が示されています。半導体設計領域では、SiemensがNeMo GymやオープンモデルのNemotron、CUDA-Xライブラリを自社EDAエージェントに組み込み、複数ツール・複数エージェントのワークフローをオーケストレーションしています。Cadence、Synopsysなども同様の方向で取り組みを進めています。
ローカル実行の広がり:RTX PCとDGX Sparkでのエージェント
2026年のGTC関連発表では、RTX PCやDGX Sparkといった手元のマシンで最新のオープンモデルとAIエージェントをローカル実行する流れが強調されました。ローカルエージェント向けの新しいオープンモデルとしてNemotron 3 Nano 4BやNemotron 3 Super 120Bが挙げられ、Qwen 3.5やMistral Small 4への最適化も併せて示されています。NemoClawは、NVIDIAデバイス上でのOpenClaw体験をセキュリティ強化とローカルモデル対応の両面から最適化するオープンソース・スタックとして位置づけられました。
ポイントは、ローカルとクラウドのハイブリッド運用です。エージェントは手元の専用マシンでNemotronなどのオープンモデルを動かしつつ、プライバシールーター経由でクラウドのフロンティアモデルも利用できます。定義されたプライバシーとセキュリティのガードレールの範囲内で、エージェントが新しいスキルを学びタスクを完遂していく——この二層構成が、常時稼働エージェントの現実的な土台になると説明されています。ファインチューニング面では、Unsloth Studioによる手軽な微調整といった選択肢も紹介されています。