この記事の結論
NVIDIAのAIエージェント実行基盤NemoClawとOpenShellの最新状況、8月11日公開のNemotron 3.5 Lightning、NeMo Switchyard、NeMo Customizerによる後処理学習までを2026年8月25日時点で整理します。
NemoClawとは何か:OpenClawに安全性と統制を加える実行基盤
NVIDIA NemoClawは、2026年3月16日のGTCで発表されたOpenClawエージェントプラットフォーム向けのソフトウェアスタックです。NVIDIAは、Nemotronモデルと新発表のOpenShellランタイムを単一コマンドでインストールでき、自己進化する自律型AIエージェント(クロー)をより信頼でき、スケーラブルで、誰もが利用しやすいものにするプライバシーおよびセキュリティ制御を追加すると説明しています。導入先はクラウドとオンプレミスに加え、RTX PC、DGX Station、DGX Sparkまで幅広く想定されています。NemoClawはNVIDIA Agent Toolkitのソフトウェアを用いてOpenClawを最適化し、OpenShellによるオープンモデルと隔離サンドボックス、ポリシーベースのセキュリティ・ネットワーク・プライバシーのガードレールを付加する構成です。エージェントはユーザーの専用システム上でローカルにオープンモデルを利用でき、プライバシールーター経由でクラウドのフロンティアモデルも併用できます。
OpenShell:プロンプトではなく「環境」に制約をかけるランタイム
NemoClawの中核をなすのがOpenShellです。報道によれば、OpenShellはエージェント向けにポリシーベースのセキュリティ、ネットワーク、プライバシーのガードレールを強制するオープンソースのランタイムで、Apache 2.0ライセンスのもとでユーザーのエージェントとインフラの仲介役として動作します。エージェントが何にアクセスし、何を実行し、どこで推論処理を行うかを定義することで、クローを隔離サンドボックス内で実行させ、生産性を損なわずに細粒度のプライバシーとセキュリティ制御を実現します。ユーザーはコマンド1つでリモートシステム上に新しいサンドボックスを作成でき、OpenClawを基本構成としつつ、AnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexなど、任意のクローやコーディングエージェントを同じ環境内で動かせるとされています。NVIDIAは、振る舞いを促すプロンプトに依存するのではなく、エージェントが動作する環境そのものに制約を課す点を安全性上の強みとして強調しています。
ブループリント構成:Deep AgentsとNemotron 3 Ultraの組み合わせ
NVIDIAの製品ページによれば、各ブループリントにはランタイムポリシー制御のためのOpenShell、NVIDIA Nemotronおよびその他のフロンティアモデル、特化と最適化のためのNVIDIA NeMoといったNVIDIA Agent Toolkitのコンポーネントが含まれます。NemoClawはLangChainのDeep Agents、チューニング済みのNemotron 3 Ultraプロファイル、そしてOpenShellを、企業がカスタマイズ・統制・任意の場所で実行できるオープンなブループリントとしてパッケージ化しています。LangChainのオープンソースDeep Agents Code harnessはNemotron 3 Ultra向けにチューニングされており、他モデルへ適応する柔軟性を保ちながら、オープンモデルの中でベンチマーク上位の精度を提供するとされています。さらにNous ResearchのHermesとの組み合わせでは、スキルと記憶のループをOpenShellのランタイム制御と結びつけ、経験から学び、成功したワークフローを再利用する常時稼働エージェントを構築できると説明されています。NemoClawはOpenShellのポリシー制御、ライフサイクル管理、サンドボックス化を追加し、NVIDIAはOpenClawプロジェクトへの貢献も継続しています。
8月11日公開:Nemotron 3.5 LightningとNeMo Switchyard
2026年8月11日、NVIDIAはNemotron 3.5 LightningとNeMo Switchyardを発表しました。Nemotron 3.5 Lightningは、より大きなマルチエージェントシステム内の特化タスク向けに設計された300億パラメータのMixture-of-Expertsモデルで、アクティブパラメータは30億とされ、常時稼働エージェントの高ボリュームな実行レイヤーを担います。NVIDIAは最大4倍の出力速度と、同クラスの他モデル比で30%高速なエージェントタスク完了を主張しており、PinchBenchで86%の精度を示しつつ1万タスクを同等精度のQwen3.6 35B比で30%速く完了したと報告、重みや学習データ、レシピをOpenMDW-1.1ライセンスで公開しています。同時公開のNeMo Switchyardは、主要なエージェントツール内でのスマートルーティングを行うオープンソースライブラリで、アプリケーションを書き換えることなく、オープン・プロプライエタリ・NVIDIA製の混在モデル群から各リクエストに最適なモデルへ振り分けることができます。両者はPC、ワークステーション、データセンター、クラウドを横断して、AIをどこでどう動かすかの制御性を高めます。
NeMo Customizerとデータフライホイール:エコシステムの活用事例
NemoClawスタックを支えるもう一つの柱がNeMo Customizerを中心とするNeMoマイクロサービス群です。Aibleは「AIエージェントをペットではなくインターンのように訓練する」というポストトレーニング手法を掲げ、エージェントの推論ステップやツール呼び出しステップに対する細粒度のユーザーフィードバックを用いて、NeMo Customizer、NeMo Evaluator、NeMo Data Designer経由でモデルを後処理学習させています。同社は、小型モデルが訓練の初期段階で大型の教師モデルを必要とする「コールドスタート問題」に対し、多くのフロンティアモデルのライセンス条項が出力の後処理学習利用を禁じている点を課題として挙げ、寛容なライセンスと公開された学習データを持つ同じオープンなNemotron 3ファミリーの一員であるNemotron 3 Ultraを最高品質の教師モデルとして位置づけています。企業はNeMoマイクロサービスによりNemotron 3 Nano Omniをファインチューニングし、自社環境内で安全に展開することも視野に入っています。エンジニアリング領域でも、SiemensがNeMo Gym、Nemotronオープンモデル、CUDA-XライブラリをSiemens Fuse EDA AI Agentと組み合わせ、マルチツール・マルチエージェントのワークフローを統合しています。
今後の見通し:常時稼働エージェント時代の「統制」が焦点に
一連の動きから見えるのは、性能競争から「用途への適合」と「統制可能性」へと軸足が移りつつある構図です。報道では、エンタープライズがAIモデルの選択肢に溺れつつある中で、問われているのはもはや生の性能ではなく、目的に対する適合性とタイミングだと指摘されています。エージェントが実行するタスクは、単純で高速な処理の連続から、深い知識領域にまたがる高複雑度の推論まで幅があり、前者には小型モデル、後者にはフロンティアモデルが適するという整理です。NVIDIAは、現代のエージェンティックシステムがタスクごとに特化したモデルのアンサンブル(システム・オブ・モデルズ)として動作する傾向を強めていると述べており、Nemotronオープンモデル群はこの前提で設計されています。加えて、Nemotron Safetyモデルは有害コンテンツ、話題からの逸脱、ジェイルブレイク試行に対するリアルタイム保護を提供し、多言語・マルチモーダルな安全レイヤーを追加します。NemoClawとOpenShellが提供する環境レベルの制約と組み合わせることで、常時稼働エージェントの実運用に必要な安全基盤が整いつつあります。