この記事の結論

NVIDIAは9月22〜23日のAI Day Singaporeで、東南アジア各国がNemotronを自国語や業務向けに調整する事例を紹介。日本語モデル作りにも参考になります。

概要:シンガポールでNemotron活用事例を一挙紹介

NVIDIAは2026年9月22日から23日にかけてシンガポールで「NVIDIA AI Day Singapore」を開催し、9月22日(米国時間)付の公式ブログで東南アジアでの発表内容をまとめました。その中心の一つが、オープンモデル「Nemotron」を各国の言語や業界に合わせて調整する取り組みです。

ブログは、Nemotronを地域のAIの土台と位置付け、組織が自分たちの要件に合わせてモデルを調整し、管理し、所有できる点を強調しています。あわせて、地域の人口や言語、労働力を反映した合成データ用の「ペルソナデータセット」も提供していると紹介しています。

日本の読者にとっては、「海外の大規模モデルをそのまま使う」のではなく、「オープンモデルを自国語・自社業務向けに追加学習して持つ」という流れが近隣国で具体化している事例集として読めます。日本語向けにも同様の素材が既に公開されている点を後半で紹介します。

各国の主な事例

ブログで紹介された主な事例は次のとおりです。

  • シンガポール:技術機関のHTX(Home Team Science and Technology Agency)が、Nemotron 3 SuperとNemotron 3 Nano Omniを使った公共安全分野の研究に着手。AI Singaporeは、東南アジアの言語と文化に向けたオープンモデル群「SEA-LION」にNemotronとNeMoのツールを取り入れる。
  • ベトナム:Viettel AIがNemotron 3 Superをベトナム語とエージェント用途向けに大規模に調整し、VMLUベンチマークと自社の製品ベンチマークの両方で最高順位を獲得。社内外向けの法律AIに採用予定。FPT Smart Cloudはベトナムの人口統計と文化に基づくデータセット「Nemotron-Personas-Vietnam」を共同開発。
  • タイ:iApp TechnologyがNeMoフレームワークでNemotron 3 Nanoをタイ語の法律データで調整し、「OpenThai 2.0 Legal」としてオープンソースで公開。法律相談チャットボット「Thanoy」の中核として約4万3,000人が利用している。
  • マレーシア:YTL AI Labsが企業向けサービスと市民向けサービスのためにNemotronを調整。

このほか、シンガポールのNCSがNemotronと映像検索・要約用のブループリント(VSS)を使ったエージェント導入を進め、ST EngineeringがNeMoのツールと最適化ソフトcuOptでAI基盤「AI Studio」を開発し、船舶の保守(Marine MRO)などの事業にエージェントAIを展開していることも紹介されました。

事例に共通するパターン

紹介された事例を並べると、共通する進め方が見えてきます。まず、分野を法律や公共安全などに絞っていることです。タイのiApp Technologyは法律分野に最初に注力し、ベトナムのViettel AIも法律AIへの採用を予定しています。対象を絞れば、学習データを集める範囲や評価の範囲も絞り込みやすくなると当サイトでは考えています。

次に、モデルの規模を用途で使い分けていることです。ベトナムでは大きめのNemotron 3 Superを、タイでは小型のNemotron 3 Nanoを土台にしています。複雑な推論や業務エージェントには大きいモデル、利用者数の多いチャットボットには軽いモデル、という選び方と読めますが、これは当サイトの解釈です。

最後に、成果物をオープンに公開している例があることです。OpenThai 2.0 LegalやNemotron-Personas-Vietnamは公開されており、各国の開発者が再利用できます。自社だけで抱えず公開することで、地域の開発者コミュニティを広げる狙いがあると考えられます。

日本語向けに使える素材

日本語についても、NVIDIAはHugging Face上で「Nemotron-Personas-Japan」を公開しています。これは日本の国勢調査の分布などに基づいて合成的に作ったペルソナのデータセットで、ライセンスはCC BY 4.0、商用利用が可能と明記されています。データのバージョン1.0は2025年9月23日公開で、今回のニュースではありませんが、東南アジアの事例と同じ種類の素材が日本語でも既に使える状態にあります。

データセットの説明によると、年齢(高齢者など)、地域(地方在住など)、学歴、職業といった軸で多様性を高め、合成データの偏りを減らすことを目的としています。成人のみが対象で、金融や医療など企業向けに関連性の高いペルソナは含まれていない点には注意が必要です。

また当サイトでは、日本語に特化した「Nemotron Nano 9B v2 Japanese」も紹介してきました。小型の日本語モデルと日本語のペルソナデータを組み合わせれば、東南アジアの事例と同じように、特定分野向けの自社モデルを試作する材料はそろっていると言えます。

日本の中小企業・情シスへの示唆

ここからは、事例を踏まえた当サイトの提案です。東南アジアの事例は国や大企業によるものが中心ですが、進め方そのものは中小企業にも応用できると考えます。いきなり全社用のモデルを作るのではなく、法務の定型的な質問対応や、社内規程の問い合わせなど、分野を一つに絞ることが第一歩です。

次に、その分野で「正解」を判断できる評価用の質問と回答を数十件用意します。ベトナムのViettel AIが公開ベンチマークと自社製品のベンチマークの両方で評価しているように、一般的な指標と自社業務の指標を分けて測ることが重要です。

そのうえで、まずは追加学習をせずに既存のNemotronモデルで試し、足りない部分が明確になってからNeMoのツールで調整を検討する、という順序が費用を抑えるうえで現実的です。NemoClawでエージェントとして動かす場合も、土台のモデルを差し替えられる構成にしておくと、後から自社調整モデルに切り替えやすくなります。

出典