この記事の結論
NVIDIA NemoClawの2026年夏の更新を整理。Nemotron 3.5 Lightning 30B-A3B対応、DGX Station向けNemotron 3 Ultra 550B経路、OpenShellの実行制御、NeMo Customizer活用を解説します。
NemoClawとは何か:OpenClaw向けオープンスタックの全体像
NVIDIA NemoClawは、OpenClawコミュニティ向けに公開されたオープンソースのAIエージェント実行基盤です。NVIDIAの発表によれば、NemoClawはNVIDIAデバイス上でのOpenClaw体験を最適化し、セキュリティを高めつつローカルモデルの利用を可能にすることを狙いとしています。最初に提供された中核機能は、ローカル推論を担うNVIDIA Nemotronオープンモデル群と、エージェント(claw)をより安全に実行するためのランタイムNVIDIA OpenShellの2つです。ローカル推論はプライバシー面で有利であり、トークン課金が発生しない点も利点として挙げられています。
さらにNemoClawは、ローカルのオープンモデルと、プライバシールーター経由でクラウド上のフロンティアモデルを併用する構成を取れます。これにより、定義されたプライバシーおよびセキュリティのガードレールに従いながら、エージェントが新しいスキルを習得してタスクを遂行する土台が整います。常時稼働型エージェントには専用の計算資源が必要になるため、NVIDIA DGX StationやNVIDIA DGX Sparkといった専用プラットフォーム上で24時間稼働させる運用が想定されています。
2026年8月28日リリース:Nemotron 3 Nano 30B-A3Bとオンボーディング柔軟化
NemoClawのリリースノート(2026年8月28日)では、導入まわりの改善が複数示されています。Hermesインストーラは、対応する資格情報とサンドボックスがいずれも存在しない場合に限り、NVIDIAホスティング推論向けに--defer-onboarding(または環境変数 NEMOCLAW_DEFER_ONBOARDING=1)を受け付けるようになりました。この場合、プロバイダやサンドボックス、オンボーディング完了状態を作らずにNemoClawとHermesをインストールできます。逆に資格情報や既存サンドボックスがある場合は、通常の検証・リカバリ経路が維持されます。
モデル面では、実験的なマネージドllama.cppパスにおいてNVIDIA Nemotron 3 Nano 30B-A3Bが、要件を満たすDGX SparkのArm64およびLinux x86_64のNVIDIA GPUホストで利用可能となり、オンボーディング時に推奨される構成となりました。Meta Muse GlimmerはDGX Sparkでの明示選択時のみ利用可能で、既存のMuse利用環境は自動移行されません。加えて、ローカルNVIDIA NIMの選択ではDGX Sparkのユニファイドメモリ上限を含む利用可能メモリ制限が強制されるようになり、nemoclaw upgrade-sandboxes --checkは古い/不明バージョンや復旧待ち、サンドボックス欠落といった対応が必要な状態を検出した際に非ゼロで終了します。
v0.0.107:実験的なNemotron 3.5 Lightningプロファイルを追加
2026年8月11日に公開されたNemoClaw v0.0.107は、DGX Spark 1台向けの実験的なNVIDIA Nemotron 3.5 Lightningプロファイルと、自動化に向けたSlack readinessの待機機能を追加しました。このリリースではコールドスタート時のオンボーディング、ダッシュボード転送、WindowsホストでのOllama、Hermesの運用、サンドボックスの復旧、CLIのインベントリ出力が改善されています。またHermes Shieldsの状態変更が強化され、より多くの診断出力から機微な値が取り除かれました。
注目すべきは、明示的な選択時のみ有効となる実験的なマネージドvLLMプロファイルで、DGX Spark 1台上でNemotron 3.5 Lightning 30B-A3B NVFP4を動作させる点です。プロファイルは検証済みの公開チェックポイント、ARM64ランタイムイメージ、パーサ、リソース設定、構造化されたサービング引数を固定(ピン留め)します。なお、Spark Expressの自動既定はQwenプロファイルのままです。運用安全性の観点では、マネージドなシングルホストvLLMのセットアップは、別プロセスがサービングポートを占有している場合に資格情報・ストレージ・ダウンロード・コンテナ変更の前で停止するようになりました。
DGX Station向け「ワンコンファーム」導入とNemotron 3 Ultra 550B
2026年7月15日のリリースノートでは、DGX Station向けに確認1回で完了するエクスプレス経路が導入されました。この経路はピン留めされたNVIDIA Nemotron 3 Ultra 550BのマネージドvLLMレシピを選択し、--station-deepseekを指定した場合は既存のDeepSeek V4 Flashレシピが選ばれます。Dockerやモデルキャッシュの空き容量が少ないことが確認された場合、ストレージチェックの成熟度を踏まえ、エクスプレスを含む非対話セットアップでは警告扱いとなる一方、対話型セットアップでは明示的な確認が引き続き必要です。モデルキャッシュのチェックが不確定な場合、非対話セットアップは停止します。
ネットワーク面では、カスタムエンドポイントのオンボーディングにおいて、NEMOCLAW_TRUSTED_PRIVATE_INFERENCE_HOSTSに登録された信頼済みプライベートホスト名やIPリテラルを、RFC1918・CGNAT・IPv6 ULAの宛先にのみ解決される場合に限って受け入れられるようになりました。DNS解決、接続アドレスのピン留め、完全一致のセマンティクス、メタデータ/リンクローカル/マルチキャスト/変換用途/ドキュメント用途などの予約レンジに対するフェイルクローズのブロックは引き続き強制されます。
Nemotron 3 Ultra:長時間稼働エージェント向けの推論効率
エンタープライズ向けの発表では、新しいNVIDIA Nemotron 3 Ultraが、長時間稼働するエージェント向けに設計された、より小型で高速なオープンモデルとして位置づけられています。複雑なエージェンティックタスクにおいて、推論が5倍高速化し、コストは最大30%削減されるとされています。提供形態としては、6月4日にHugging Face、ModelScope、OpenRouter、build.nvidia.comでのNVIDIA NIMマイクロサービスとしての提供に加え、広範なエコシステム経由での利用が見込まれると案内されました。
NemoClaw側でも、製品ページではLangChain Deep Agentsとチューニング済みのNemotron 3 Ultraプロファイル、そしてNVIDIA OpenShellをまとめた、企業がカスタマイズ・ガバナンス・任意環境での実行を行えるオープンなブループリントとして説明されています。各ブループリントには、NemotronなどのモデルとNVIDIA NeMoによる特化・最適化、OpenShellによるランタイムのポリシー制御といったNVIDIA Agent Toolkitの構成要素が含まれます。
NeMo Customizerによるポストトレーニングとパートナー事例
NeMo Customizerは、エージェントのポストトレーニングを支える中核コンポーネントとして活用が進んでいます。Aibleは「AIエージェントをペットではなくインターンのように訓練する」というアプローチを掲げ、エージェントの推論ステップやツール呼び出しステップに対するきめ細かなユーザーフィードバックを用い、NVIDIA NeMo Customizer、NeMo Evaluator、NeMo Data Designer経由でモデルをポストトレーニングしています。
この手法の課題は、小型モデルのブートストラップに大型の教師モデルが必要となるコールドスタート問題でした。多くのフロンティアモデルはライセンス条項で出力のポストトレーニング利用を禁じていますが、Nemotron 3 Ultraは同じオープンなNemotron 3ファミリーに属し、寛容なライセンスと公開された学習データ・パイプラインを備えるため、その出力をより小型のNemotron 3 SuperやNanoのポストトレーニングに利用できると説明されています。AibleはNemotron 3 Ultraを既存のNVIDIAクラウドパートナーのエンドポイント経由、あるいはプライベートサーバーへの自動インストール・設定によって利用できるとしています。
実務での活用:EDA・製造・3D制作のエージェントワークフロー
NemoClawの活用領域は個人向けアシスタントにとどまりません。NVIDIAの紹介では、マルチステップのEDA(電子設計自動化)ワークフローのオーケストレーションが挙げられ、Cadenceの事例ではRTL検証に要する期間が数週間から数時間へ短縮されたとされています。製造分野では、形状の反復検討、熱設計、射出成形、製造オペレーションの自動化が示されています。
クリエイティブ領域では、統制されたサンドボックス内でローカルモデルを使いながらBlenderやNVIDIA Omniverseのワークフローを制御する使い方が紹介されています。さらにNous ResearchのHermesとの組み合わせでは、スキルとメモリのループにOpenShellのランタイム制御を組み合わせ、自己改善型エージェントを安全に運用しつつワークフローコストを削減する構成が示されています。GTCではRTX PCやDGX Sparkでローカル実行される最新オープンモデルとして、Nemotron 3 Nano 4BやNemotron 3 Super 120B、Qwen 3.5やMistral Small 4向け最適化も紹介されました。